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金沢地方裁判所 昭和43年(行ウ)10号 判決 1975年3月06日

金沢市横川町五丁目一五七番地

原告

光谷多可志

右訴訟代理人弁護士

野村侃靱

同市彦三町一丁目一五番五号

被告

金沢税務署長

浅田仁一

右指定代理人

北野太慶雄

同市広坂二丁目二番六〇号

被告

金沢国税局長

及川潤三

右指定代理人

塚原昌二

右被告両名指定代理人

笠原昭一

小中敝次

南亮

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告金沢税務署長が昭和四二年九月二一日付でなした原告の昭和三九年分所得税の総所得金額を金二、九七八、六六七円と更正した処分のうち金二、三三三、六二一円を超える部分はこれを取消す。

2  被告金沢税務署長が右同日付でなした過少申告加算税金一一、六〇〇円を賦課する決定はこれを取消す。

3  被告金沢国税局長が原告に対し昭和四三年五月二四日金沢(所)第四〇一号(金協第七-三三号)をもってなした原告の審査請求を棄却する旨の裁決はこれを取消す。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和四〇年三月一五日被告金沢税務署長に対し、原告の昭和三九年分の所得税について、別紙一の(1)欄記載のとおり、譲渡所得金額を二五二、三二一円、総所得金額を二、三三三、六二一円、申告納税額を一五一、七六〇円として確定申告したところ、同被告は、昭和四二年九月二一日付で右申告について、別紙一の(2)欄記載のとおり、譲渡所得金額を八九七、三六七円、総所得金額を二、九七八、六六七円、申告納税額を三八五、八〇〇円と更正し、かつ、過少申告加算税一一、六〇〇円の賦課決定をした。

2  原告は、これを不服として昭和四二年一〇月一八日被告金沢税務署長に対し異議の申立をしたが、同被告は、同年一二月二六日付でこれを棄却した。

3  そこで、原告は、昭和四三年一月二四日被告金沢国税局長に対し審査請求をしたところ、同被告は、同年五月二四日これを棄却し、同月三一日その旨原告に通知した。

4  しかし、本件更正処分には次の違法があり、本件更正処分を前提とする本件過少申告加算税賦課決定処分も違法である。

(一) 昭和四〇年法律第三二号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という。)第三八条の六の適用について

(1) 原告は、昭和三九年四月一日、訴外光谷金属興業株式会社(以下「光谷金属」という。)に対し、原告所有の別紙四の一記載の物件(以下「本件譲渡物件」という。)を代金五、七一一、〇〇〇円で売却し、同日、右代金の一部の代物弁済として、光谷金属所有の別紙四の二記載の物件(以下「本件取得物件」という。)を三、七五四、六〇九円で譲り受けた。

(2) 原告は、かねてより光谷金属に対し本件譲渡物件を賃貸していたものであるが、右代物弁済として取得した本件取得物件も光谷金属に対し右契約成立の日から期間を定めず賃料一か月八、〇〇〇円で貸し付けた。

(3) すなわち、原告は、本件譲渡物件及び本件取得物件について、昭和四〇年政令第九五号による改正前の祖税特別措置法施行令(以下「施行令」という。)第二五条の六第一項に規定する相当の対価を得ての継続的貸付を行なっていたものであるから、本件譲渡物件の譲渡及び本件取得物件の取得は、措置法第三八条の六第一項に規定する事業用資産の買換えに該当し、譲渡所得金額を計算する場合には、本件譲渡物件のうち本件取得物件の取得価額三、七五四、六〇九円をこえる金額(一、九五六、三九一円)に相当する部分の譲渡があったものとして計算すべきである。

(4) しかるに、本件更正処分は右の特例計算を行なっていない。

(二) (予備的主張)本件譲渡物件の譲渡による実質的な収入金額について

(1) 前記のとおり、原告は本件譲渡物件を代金五、七一一、〇〇〇円で光谷金属に売却し、右代金の一部の代物弁済として、本件取得物件を三、七五四、六〇九円と評価して取得したが、これは当時支払能力を失っていた光谷金属の負債整理のため、光谷金属の大口債権者である訴外株式金社守谷商会の要求により行なったことで、光谷金属は当時既に本件取得物件について別紙五記載のとおり被担保債権額合計九〇、〇〇〇、〇〇〇円の抵当権及び根抵当権を設定していた。そして、原告が本件取得物件を取得した後も、右守谷商会の強い要求で同商会のため昭和三九年九月一日元本極度額七〇、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権、昭和四〇年二月一一日元本極度額三〇、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権を設定し、更に同年七月二〇日にはこれを同商会に代物弁済として譲渡せざるを得なかった。

(2) 右事実に徴すれば、本件取得物件は実質的に無価値物というべきであるから、本件譲渡物件の譲渡による原告の収入金額は、前記の五、七一一、〇〇〇円から本件取得物件の形式上の評価額三、七五四、六〇九円を差し引いた一、九五六、三九一円である。

(3) しかるに、本件更正処分では右の五、七一一、〇〇〇円をもって収入金額としている。

5  また、本件裁決も、次のとおり違法である。

すなわち、被告金沢国税局長は原告の前記審査請求について裁決するには金沢国税局協議団の議決に基づいて行なうべく、協議団の審理は口頭審理を原則として不服申立人に十分な意見陳述の機会を与えるべきであるにもかかわらず、金沢国税局協議団は原告に対し意見陳述の機会を形式的に与えたのみで、実質的には書面審理しか行なっていないので、右審理手続は違法というべく、このような違法な審理手続に基づいてなされた本件裁決もまた違法である。

6  よって、原告は、被告金沢税務署長に対し、本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分の取消を求め、被告金沢国税局長に対し、本件裁決の取消を求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因1.2及び3は認める。

2  請求原因4のうち、原告が光谷金属に対し本件譲渡物件を五、七一一、〇〇〇円で売却し、光谷金属から本件取得物件を三、七五四、六〇九円で取得したこと、原告が本件譲渡物件を他に賃貸していたこと、及び原告が本件取得物件を光谷金属に使用させていたことは認めるが、その余の事実は争う。ただし、本件取得物件の取得は売買によるものであり、本件譲渡物件の賃貸先は訴外御影鉄工株式会社である。また、原告は本件取得物件を光谷金属に贈与し、光谷金属がこれを訴外株式会社守谷商会に代物弁済として譲渡したものであり、原告が直接同商会に代物弁済として譲渡した旨の主張は事実に反する。なお、右の贈与は、昭和四〇年七月二〇日になされており本件係争年分の所得税には何らの影響も及ぼさない。

3  請求原因5は争う。

三  被告らの主張

1  原告は、昭和三九年分所得税の確定申告について、別紙一の(1)欄記載のとおり、不動産所得金額二一六、三〇〇円、給与所得金額一、八六五、〇〇〇円、譲渡所得金額二五二、三二一円で、総所得金額は二、三三三、六二一円であると申告したが、このうち譲渡所得金額の二五二、三二一円は、別紙二の(1)欄記載のような計算に基づくものである。しかし、原告の譲渡所得金額は、以下に述べるとおり一、〇〇五、一四二円であり、総所得金額は三、〇八六、四四二円となる。被告金沢税務署長のなした本件各処分は、いずれも右総所得金額の範囲内においてなされているので、適法である。

(一) 本件譲渡物件の譲渡価額について

原告は、前記のとおり、本件譲渡物件を光谷金属に五、七一一、〇〇〇円で譲渡した。

(二) 本件譲渡物件の取得価額について

本件譲渡物件の取得価額は、別紙三記載のとおり三、五五〇、七一六円である。

(三) 措置法第三八条の六の適用について

原告は本件取得物件を光谷金属に無償で使用せしめていたものであり、施行令第二五条の六第一項の「相当の対価」を得ていなかったから、これを事業の用に供したものとはいえず、本件においては措置法第三八条の六第一項に規定する事業用資産の買換えの場合の譲渡所得金額の特例計算を否定すべきである。したがって、買換資産の取得価額ということは、本件の場合問題とする余地がない。

(四) 本件譲渡物件の譲渡による実質的な収入金額について

(1) 原告は、本件譲渡物件を代金五、七一一、〇〇〇円で光谷金属に売却し、右代金の一部の代物弁済として、本件取得物件を三、七五四、六〇九円と評価して取得したが、本件取得物件は抵当権及び根抵当権が設定されているなどして無価値であり、したがって本件譲渡物件の譲渡による原告の実質的収入金額は一、九五六、三九一円であると主張する。

しかしながら、原告は、抵当権及び根抵当権が設定されていることを知りながら、本件取得物件を三、七五四、六〇九円と評価して譲り受けたものであるから、本件取得物件は同額の価値があったものというべきである。

(2) 仮に、本件取得物件が無価値で、原告が本件譲渡物件を譲渡して得た対価が原告主張のごとく一、九五六、三九一円であったとすれば、この金額は、本件譲渡物件の譲渡時における時価と認められる五、七一一、〇〇〇円の二分の一に満たず、著しく低い価額であるから、昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(以下「旧所得税法」という。)第五条の二第二項及び昭和四〇年政令第九六号による改正前の所得税法施行規則(以下「旧所得税法施行規則」という)第二条の規定により、本件譲渡物件は、譲渡時の価額である五、七一一、〇〇〇円で譲渡されたものとみなされる。

(3) したがって、いずれにしても、本件譲渡物件の譲渡による原告の収入金額は、その譲渡価額相当の五、七一一、〇〇〇円である。

(五) 譲渡所得金額の計算について

以上に基づき、原告の譲渡所得金額を計算すると、別紙二の(2)欄記載のとおり一、〇〇五、一四二円となる。

2  被告金沢国税局長の審査手続は、次に述べるとおり適法であり、したがって本件裁決もまた適法である。

(一) 審査請求の審理は、書面によるのが原則であり、ただ審査請求人等の申立があったときに、審査庁は申立人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならないだけである(行政不服審査法第二五条)。国税局長が国税に関する法律の規定に基づく処分に対する不服申立について裁決する場合にも、当該国税局に付置された協議団の議決に基づいてこれをしなければならず(国税通則法第八三条第一項)、右議決は、協議団の三人以上の協議官をもって構成する合議体の合議により行なうものとし、右合議体が合議を行なうにあたっては、当該不服申立をした者にその意見を述べる機会を与えなければならない(国税庁協議団及び国税局協議団令第四条及び第五条)が、その回数、時期、方法等は、右合議体の判断に委ねられている。

(二) 本件の審査請求の審理にあたっても、金沢国税局協議団本部協議官は、昭和四三年四月一五日同本部事務室において、審査請求人たる原告に面接し、口頭による意見陳述の機会を与えている。

(三) したがって、本件審査請求に対する審理は法令に従った適法なものであり、これに基づく本件裁決は適法である。

四  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1の(二)のうち、本件譲渡物件の取得価額が三、五五〇、七一六円であること、及び本件譲渡物件中の建物の建築価額(取得価額)が合計三、一〇三、〇〇〇円であることは争う。

2  被告らの主張1の(三)ないし(五)及び2は争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証ないし第六号証並びに第七号証の一及び二

2  乙第四号証ないし第七号証の各成立は知らない。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証ないし第九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一及び二、第一二号証並びに第一三号証

2  証人有沢基之及び鈴木昭

3  甲第一号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の昭和三九年中の所得金額のうち、不動産所得が二一六、三〇〇円、給与所得が一、八六五、〇〇〇円であることは当事者間に争いがないが、譲渡所得について、原告が二五二、三二一円であると主張するのに対し、被告金沢税務署長はこれを一、〇〇五、一四二円であると主張するので、まずこの点につき検討する。

1  本件譲渡物件の譲渡価額について

原告が昭和三九年四月一日光谷金属に対し原告所有の本件譲渡物件を代金五、七一一、〇〇〇円で売却したことは、当事者間に争いがない。

したがって、本件譲渡物件の譲渡による原告の収入金額は五、七一一、〇〇〇円というべきである。

2  本件譲渡物件の取得価額について

(一)  譲渡所得の金額は、その年中の資産譲渡による総収入金額から、その資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除した金額である(旧所得税法第九条第一項第八号)。しかし、本件においては、原告が本件譲渡物件につき設備費、改良費及び譲渡経費を支出したことについて主張も立証もないので取得価額のみを検討すれば足りる。

(二)  原告が本件譲渡物件を他に賃貸していたこと、原告が昭和三九年四月一日にこれを譲渡したこと、及び、別紙四記載のとおり、本件譲渡物件中の事務所が木造で、倉庫が鉄骨造であることは、当事者間に争いがない。

また、別紙三記載のとおり、原告が本件譲渡物件中の土地を昭和三一年に七〇〇、〇〇〇円で、ポンプを昭和三三年四月に二〇〇、〇〇〇円で、クレーンを同月に三〇〇、〇〇〇円で、電話を三四、三〇〇円で取得し、更に事務所及び倉庫を昭和三二年六月に取得したこと、並びに右倉庫の鉄骨の肉厚が四ミリメートルであることについて、原告はこれを明らかに争わないので自白したものとみなす。

更に、証人有沢基之の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件譲渡物件のうち事務所の建築価額(取得価額)が六二〇、六〇〇円で、倉庫の建築価額(取得価額)が二、四八二、四〇〇円であることが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  そこで、(二)記載の事実を前提に、旧所得税法第一〇条の三、旧所得税法施行規則第一〇条、第一二条の一三及び第一二条の一五、固定資産の耐用年数等に関する省令(昭和二六年大蔵省令第五〇号)別表一及び一〇(乙第一一号証の一及び二)の規定を適用し、本件譲渡物件のうちの減もう等により減価する資産につき減価償却を行なったうえ、本件譲渡物件の取得価額を計算すると、別紙三記載のとおり三、五五〇、七一六円となる。

3  措置法第三八条の六の適用について

(一)  原告は、本件譲渡物件及び本件取得物件について、光谷金属に対し施行令第二五条の六第一項に規定する相当の対価を得ての継続的貸付を行なっていたものであるから、本件譲渡物件の譲渡及び本件取得物件の取得は措置法第三八条の六第一項の事業用資産の買換えに該当すると主張し、被告金沢税務署長は、原告が本件譲渡物件を光谷金属に使用せしめるにつき相当の対価を得ていたという事実を否定するので、以下この点について検討する。

(二)  成立に争いのない甲第七号証の一及び二、乙第一号証並びに乙第二号証、並びに証人鈴木昭の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証及び乙第五号証によると、原告は本件取得物件を光谷金属に使用せしめるにつき、賃料の約定をなしておらず、現実にも賃料の支払を受けていなかった事実が認められる。

原告の証人調書である甲第七号証の一及び二には、原告は本件譲渡物件を光谷金属に対し月一〇〇、〇〇〇円の賃料で賃貸していたので、この賃貸借契約が本件取得物件についても当然継続すると考えていた旨の証言部分があるが、同一当時者間において二つの物件が交換的に授受されたとしても、一の物件に対する賃貸借契約が当然他の物件に対しても継続するという法理はなく、本件取得物件について前記のとおり賃料の授受がなかったことは、本件取得物件につき賃貸借契約が継続ないし締結されなかったことを裏付けるものである。また、甲第七号証の一及び二には、光谷金属が本件取得物件の公租公課を負担していたと思うという証言部分があるが、仮にこのような事実があったとしても、これをもって原告が本件取得物件の貸付につき光谷金属から相当の対価を得ていたものとは到底いえない。更に、甲第七号証の一及び二には、原告は本件取得物件上に放置された機械取替部品のスクラツプを処分し、その処分代金を領得していたところ、この処分代金が本件取得物件の賃料に相当するとも考えられるという証言部分がある。しかし、原告自身、右スクラツプは客の残していったもので光谷金属の所有物ではないとも供述していて、その内容が極めてあいまいであるばかりでなく、仮に右スクラツプが光谷金属の所有に属し、原告がその処分代金を領得した事実があったとしても、その性質からして右処分代金が本件取得物件の継続的貸付の対価であるとは考えられない。そのうえ、光谷金属の本社経費明細帳(乙第四号証)及び製造部元帳(乙第五号証)にも、右処分代金が本件取得物件の賃料として経理上の処理をされた形跡がないので、原告が右処分代金を本件取得物件の賃料として受領したとの事実は否定すべきである。

その他、前記認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  以上のとおり、原告は本件取得物件につき施行令第二五条の六第一項に規定するところの相当の対価を得ての継続的貸付を行なっていたものとはいえず、したがってこれを事業の用に供したものとはいえないから、本件譲渡物件の譲渡と本件取得物件の取得は、措置法第三八条の六第一項の事業用資産の買換えに該当せず、本件においては、同条に規定する譲渡所得金額の特例計算を適用する余地はない。

4  本件譲渡物件の譲渡による実質的な収入金額について

(一)  原告は、本件譲渡物件を代金五、七一一、〇〇〇円で光谷金属に売却し、右代金の一部の代物弁済として本件取得物件を三、七五四、六〇九円と評価して取得したが、本件取得物件には被担保債権合計九〇、〇〇〇、〇〇〇円の抵当権及び根抵当権が設定されており、原告が本件取得物件を取得した後も、光谷金属の大口債権者である訴外株式会社守谷商会の要求で同商会のためこれに元本極度額合計一〇、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権を設定し、更に昭和四〇年七月二〇日にはこれを代物弁済として同商会に譲渡せざるを得なかったもので、本件取得物件は実質的に無価値物というべきであるから、本件譲渡物件の譲渡による収入金額は、右の五、七一一、〇〇〇円から三、七五四、六〇九円を差し引いた一、九五六、三九一円であると主張するので、この点につき検討するに、まず次の諸点を指摘することができる。

(1) 原告において、前記のとおり、本件取得物件を三、七五四、六〇九円の価額で取得したものと自ら申告している以上、どのような担保権が設定されていようと、それだけの剰余価値があったものと考えるのが自然であること。

(2) 原告が本件取得物件の取得後において、これに根抵当権を設定し、あるいはこれを右守谷商会に譲渡しようと、取得時の価額を左右するものではないこと。

(3) 原告は本件取得物件を昭和四〇年七月二〇日に右守谷商会に譲渡したと主張しているが、成立に争いのない乙第八号証及び乙第九号証並びに証人鈴木昭の証言によれば、原告は右日時頃本件取得物件を光谷金属に贈与し、昭和四〇年分の確定申告で三、五七五、〇〇〇円の譲渡所得を申告し、光谷金属は昭和四〇年度の損益計算書で一一、六二一、八六七円の受贈益を計上していること。

以上を総合すれば、本件取得物件は、原告の取得時において、原告の申告どおり三、七五四、六〇九円の実質的価値があったものと認めるが相当であり、甲第七号証の一及び二のうちこの認定に反する部分は右に掲げた各事実に照らし措置できず、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。

したがって、原告の右主張は失当である。

(二)  仮に、本件取得物件が無価値で、原告が本件譲渡物件を譲渡して得た対価が原告主張のとおり一、九五六、三九一円であったとしても、この金額は本件譲渡物件の譲渡時における時価と認められる五、七一一、〇〇〇円の二分の一にも満たない著しく低い価額であるから、旧所得税法第五条の二第二項及び旧所得税法施行規則第二条の規定により、本件譲渡物件は譲渡時の価額である五、七一一、〇〇〇円で譲渡されたものとみなされるので、いずれにしても同価額をもって前記収入金額とすべきであり、原告の主張は失当である。

5  以上に基づき、旧所得税法第九条第一項の規定を適用し、原告の課税譲渡所得金額を計算すると、結局別紙二の(2)欄記載のとおり、被告金沢税務署長主張の一、〇〇五、一四二円となる。

三  原告の昭和三九年中の所得金額のうち、譲渡所得以外の所得金額が合計二、〇八一、三〇〇円であることは、前記のとおり当事者間に争いがないから、結局原告の昭和三九年分の総所得金額は三、〇八六、四四二円となる。

そして、所得控除の合計金額が三〇八、二一六円であることは当事者間に争いがない。したがって、課税総所得金額は二、七七八、二〇〇円(国税通則法第九〇条第一項の規定により一〇〇円未満切捨)となる。そして、旧所得税法第一三条の規定を適用し、右課税総得金額を基礎とした税額を求めると七五九、二八〇円となる。源泉徴収税額が三三〇、一二五円であることは当事者間に争いがないので、これを控除すると、申告納税額は四二九、一五〇円(国税通則法第九一条第一項の規定により一〇円未満切捨)となる。

また、原告の申告納税額は一五一、七六〇円であるから、国税通則法第六五条第一項の規定を適用し、右四二九、一五〇円との差額二七七、〇〇〇円(国税通則法第九〇条第三項の規定により一、〇〇〇円未満切捨)に一〇〇分の五を乗じ過少申告加算税を求めると一三、八五〇円となる。

したがって、総所得金額を二、九七八、六六七円、申告納税額を三八五、八〇〇円とした被告金沢税務署長の本件更正処分、及び過少申告加算税を一一、六〇〇円とした同被告の本件過少申告加算税賦課決定処分は、いずれも右各金額の範囲で行なわれたものであるから、適法というべきである。

四  次に、原告は、本件審査請求を審理した金沢国税局協議団は原告に対し意見陳述の機会を形式的に与えたのみで、実質的には書面審理しか行なっていないから、右審理手続は違法であると主張するので、検討する。

一般に、行政処分に対する審査請求の審理は、書面によるのが原則であるが、審査請求人又は参加人の申立があったときは、審査庁は、申立人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない(行政不服審査法第二五条第一項)。そして、国税に関する処分について審査請求があった場合、国税局長は当該国税局に付置された協議団の議決に基づいて裁決すべく(国税通則法第八三条第一項)、協議団の議決は三人以上の協議官をもって構成する合議体の合議により行なうものとし、合議体が合議を行なうにあたっては、当該不服申立人にその意見を述べる機会を与えなければならない(国税庁協議団及び国税局協議団令第四条及び第五条)。

成立に争いのない乙第三号証によれば、本件審査請求の審理にあたり、金沢国税局協議団の担当協議官山本進は、昭和四三年四月一五日同協議団本部において原告と面接し、約四五分間に亘って原告の審査請求に対する意見を聴取していることが認められ、この認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、金沢国税局協議団の合議体は原告に対し口頭による意見陳述の機会を与えたものと認められるので、本件審査請求の審理手続は適法というべく、したがってこれに基づく被告金沢国税局長の本件裁決は適法である。

五  以上のとおり、被告金沢税務署長の本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分並びに被告金沢国税局長の本件裁決はいずれも適法であり、原告の本訴請求は、すべて理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上孝一 裁判官 泉徳治 裁判官 沼里豊滋)

(別紙一) 課税処分表

<省略>

(別紙二) 譲渡所得金額の計算

<省略>

<省略>

(別紙三)

本件譲渡物件の取得価額の計算

<省略>

(注1)耐用年数は昭和26年大蔵省令第50号別表1による。

(注2)償却率は同省令別表10による。

(別紙四)

物件目録 一 譲渡物件

1 宅地

金沢市増泉町ト一〇一番   一一七・〇〇坪

2 家屋

金沢市増泉町ト一〇一番地

家屋番号 二二七番

一 鉄骨造スレート葺平屋建倉庫  五四・〇〇坪

附属建物

一 木造スレート葺二階建事務所

一階     六・〇〇坪

二階     七・五〇坪

3 機械等

ポンプ、クレーン、電話

二 取得物件

1 宅地

一 金沢市糸田町ア四五番の四   八七・〇〇坪

一 同 市同 町ア四六番の五   五六・〇〇坪

一 同 市 同 町ア九八番   二四九・〇〇坪

合計            三九二・〇〇坪

2 家屋

金沢市糸田町ア四六番地

一 木造瓦葺平屋建倉庫      四〇・〇〇坪

(別紙五) 担保権設定目録

<省略>

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